鍼灸業界の最新動向
2018/4/1

鍼灸の歴史とその未来:40兆円を超える医療費の問題

鍼灸市場については、3,000億円の鍼灸市場:鍼灸院や鍼灸師の数はいくつ?で解説したように、鍼灸師の活躍できる分野が拡大しているため伸び代があると考えます。

では、鍼灸市場の今後について、日本の40兆円を超える医療費の問題や知っておくべきである2025年問題から考えてみましょう。まずその前に、鍼灸の歴史について解説します。

鍼灸の歴史

鍼灸には長い歴史があり、今から3,000年以上も前に中国で誕生しました。

当時の中国では、地域により食生活やワークスタイルが違ったため、医療技術の発展もそれぞれの地域で異なりました。

鍼灸の治療技術に関する記述は、戦国時代の文献にも登場します。漢の時代には黄帝内経(こうていだいきょう)と呼ばれる、現存する中国最古の医学書が作られますが、もちろんこの中にも鍼灸の原点となる治療技術の記録が記されています。

その後、鍼灸の知識や技術は中国から海を渡り日本に伝承されたと言われています。

6世紀半ば頃に朝鮮半島から日本へ持ち込まれたと伝えられており、日本国内での律令制度が整備され、

鍼博士や鍼生といった鍼灸治療を専門で行う医療職が出来上がりました。

黄帝内経は中国最古の医学書ですが、日本には医心方(いしんほう)と呼ばれる日本最古の医学書があります。これは鍼博士、丹波康頼が当時中国から伝えられた医学の技術と情報をもとに書いた書物で、984年に円融天皇に献上されました。

東洋医学用語では経穴と言いますが、これはいわゆるツボのことで、その経穴と経脈(気の通る道)に関する研究が盛んになされるようになり、江戸時代に入るころには研究書物が多く制作されるようになりました。

一方で、西洋医学の歴史はどういったものでしょうか。


西洋医学は、古代ギリシャのヒポクラテルや古代ローマのガレノスが提唱し発展してきました。室町時代に西洋医学が伝えられ、江戸時代には長崎・出島のオランダ南館に駐在していた南館医によって蘭方医学が限定的に行われていた記録もあります。その後、杉田玄白らによる解体新書が翻訳され、蘭学への関心が高まりました。1861年には、蘭方医学専門の医療機関である長崎養成所が創立され、日本での西洋医学の導入の先駆けとなりました。


西洋医学と東洋医学


西洋医学と東洋医学では考え方と疾病に対するアプローチ方法が違います。


西洋医学は、解剖学、生理学を中心に血液検査や尿検査、MRIやCTなどの化学検査に基づき細胞や遺伝子レベルでの分析をし、病気や疾病にアプローチします。西洋医学ではこうした検査により病気の原因を究明し、その病気に名前をつけ、その病名により投薬や手術をおこないます。

西洋医学の強みは、こうした病名のわかる病気の元を取り除く、画一された治療ができることにあります。このことから、西洋医学では悪くなったところを局所的に治したり取り除いたりすることが得意と考えられるでしょう。

一方で、東洋医学は、心と体は一体であると考え、患者の訴える症状や病状を把握し、悪くなった部分もさることながら、悪くなった原因を探り、その根本から治療をすることを得意とします。

西洋医学のように手術などの技術は使用しない代わりに、人間が本来もつ自然治癒力を高めながら、回復を目指していきます。西洋医学では病気と診断されない冷えや、自律神経の乱れや気の流れの滞りなど目に見えない部分の疾患へ対応することを得意とします。

病気の手前の未病治療もできる?

鍼灸師ってどういう職業?国家資格取得後にできることで解説したように、鍼灸師は、東洋医学の考え方ベースに治療をします。その考え方の1つに『治未病』という考え方があります。文字の通り未だ病まないことでありますが、西洋医学の二元的健康論とは異なった、東洋医学には一限健康論といった考え方があります。

これは、健康な状態ではない場合を疾病状態とする、健康か不健康かの2極的な考え方ではなく、東洋医学では数直線のような考え方をするため、健康度の高い状態から低い状態まではすべてつながっており、健康度の高い状態から低い状態へとメーターが下がると疾病の状態になるという考え方です。未病という言葉は、中国最古の医学書である黄帝内経や鍼灸の古典である難経という書物にも記されており、東洋医学では古くから伝わることばです。

この考え方によると、病気の発症を予兆により予防すること、また一旦発症した場合でも重篤な状態にならないように早期に適切処置をすることが肝心でこれにより他の臓器への転移や拡散を防止する、ということになるのです。

具体的には先出しているように、鍼灸は免疫力を高めることが効果として期待されています。鍼刺激により、身体の組織を破壊されたと勘違いした細胞が傷つけられた箇所を修復するように働きかけ、人間のもつ自然治癒力を利用し、免疫力を活性化します。

また身体を温める灸の技術では内臓器を温めることができ、血流をよくし、体調を整える効果によって外邪の侵入を防ぎます。

NIH(米国国立衛生研究所)の声明によると神経系の疾患である、頭痛やめまい、不眠にも効果がありますので、そうした生活サイクルを狂わせる根源にアプローチをして本体あるべき正しい生活へと導き、身体的にも精神的にも健康であることを目指すことができます。こうしたことから、鍼灸師は治未病のスペシャリストであるとも言えるのです。

40兆円を超える国民医療費問題

2017年9月、厚生労働省は平成27年度の国民医療費が42兆3,644億円にのぼったと発表しました。

この数字は昭和29年以降過去最高額であり、過去5年の推移として、医療費は毎年1兆円ずつを増加している傾向にあります。

【医療費はなぜ増加するの?】

国民医療費が増加する原因は様々な理由がありますが、わかりやすく解説すると以下のような理由が挙げられるでしょう。

・人口の増加

・少子高齢化

・医学、医療の進歩

・疾患構造、対象の変化

現在人口減少問題に直面している日本の状況を考えれば、「人口の増加」という要因は、国民医療費の増加に関与していないことは容易に想像がつきます。国民医療費の増加に大きく関係していることは、「少子高齢化」です。高齢になると病気にかかりやすくなるので、病院にかかることも多くなります。

さらに日本特有の要因としては、病院にかかる回数が多いということです。国民皆保険制度を導入している日本では、すべての人がいつでも平等に医療を受けることができます。これにより、少しの不調でもすぐに病院にかかることが可能となりました。

これは世界的に見ても大変素晴らしい制度であることは間違いありませんが、この制度自体は65歳以上の老年人口よりも15歳~64歳の生産年齢人口が多い場合に財源が確保でき、成り立つ制度でした。

繰り返しになりますが、現在、少子高齢化が急ピッチで進んでいる日本では、生産年齢人口が減少し、老年人口が増加しているため、この制度自体の存続が危ういのです。

以上のことから、少子高齢化が国民医療費の増加の原因として大きく関わっていることがお分かりいただけたと思います。

【国民医療費が増加するとなぜ困るの?】

国民医療費が増加するということは、国や地方の財政負担が増えるだけでなく、もっと掘り下げると、個人や企業にも影響が及びます。それはなぜでしょうか?

医療費の財源のうち約半分は、皆さんが支払っている医療保険料や健康保険料であるからです。一般企業の保険組合制度では、医療保険の費用は雇用主(企業)と労働者が折半しています。こうした状況下で、企業などが持っている健康保険組合の懐事情が悪化した場合には、保険料が引き上げられる可能性も考えられます。

また、生産年齢人口が減少し、高齢者が増え続けると、社会保障の財源確保が難しくなります。そうなると、国は保険料の引き上げだけでなく、国は消費税の増税などを国策として打ち出すでしょう。

このようなことから、国民医療費の増加について、「政治家が考えること」と言わずに、全国民が直面し、一人ひとりが考えなくてはならない問題であるとわかるでしょう。

意外と知らない2025年問題

皆さんは2025年問題をご存知でしょうか?ニュースや新聞ではあまり大きく報じられていませんが、刻一刻と迫りくるこの問題もまた、全国民に大きく関係してくる日本が直面する大きな問題です。

【人口が減って高齢者の割合が増加する】

平成30年2月現在、総務省の発表によると日本の総人口は約1億2656万人であり、昨年よりも約22万5千人減少しました。

65歳以下は9157万2千人で、65歳以上は3510万6千人です。全人口に対する比率でみると、65歳以上の人口は、総人口の約28%にあたります。

昨年度比でみると、65歳以下は78万7千人減少し、65歳以上は56万2千人増加しました。

この数字からもわかるように日本の人口は減少していますが、65歳以上は年々顕著な増加傾向を示します。

【団塊の世代が2025年に75歳を迎える】

なぜこのようなスピードで高齢人口が増えるのか。それは1947年~1949年に生まれた団塊の世代と呼ばれる人口層の人々が、一斉に75歳を迎えるからです。それがちょうど2025年にあたります。

平成30年2月現在で、約28%の人が65歳以上ですが、2025年には、後期高齢者といわれる75歳以上の人々が、人口に対して約30%を占めると予想されています。

このことこそ、日本を様々な問題に直面させる「2025年問題」であるのです。

若者の負担が増えるという現実。高齢者や社会保障制度を支えていく若者が減少し、国民の3人に1人が65歳以上となると、若者にかかる負担は大いに増加します。

社会保障財政の状況は以下のようにあらわせます。

・胴上げ型:大勢が一人を持ち上げる

・騎馬戦型:3~4人が一人を持ち上げる

・肩車型:一人が一人を持ち上げる

少子高齢化社会が深刻化するまでは、社会保障財政は『胴上げ型』でした。この頃は、人口も増加し、生産年齢人口の割合も多かったためです。現在は『騎馬戦型』ですが、これが2025年以降『肩車型』になると言われています。生産年齢人口が減少するので、社会保障の財源確保が難しくなることが予想できます。

また、病院のベッド数が足りなくなるという問題も出てきます。現在、一般病床と療養病床を合わせた病床数は約135万個ですが、政府は2025年までに病床を115万~119万まで減らすことを目標として掲げています。

高齢化が進み、入院が必要になる患者が増えるような社会背景とは裏腹に、軽度の症状や自宅介護が見込める場合は自宅療養を推奨していくことが狙いです。

別の見解では、2025年には65歳以上の人で認知症患者が5人に1人と言う割合まで達してしまうと言う見込みもあり、2012年~2015年の約10年で見ると、その割合はおよそ1.5倍にもなるのです。

こうしたことから、社会保障の財源確保という金銭的な側面と、介護問題の精神的な側面の双方から、若者の負担が増えることになります。

2025年問題について、おわかりいただけたでしょうか。

このような未来を迎えることは、ある程度避けることはできませんが、鍼灸にはこの状況を打開できるような可能性を秘めているかもしれません。