圧倒的な人数のお産に立ち会った鍼灸師

Q. 早速ですが、先生の得意とする治療を教えて下さい。

私は助産師との交友関係があり、お産に立ち会う機会が多かったため、お産に関する治療を非常に得意としています。この十数年の間で、300件弱
のお産に鍼灸師として立ち会い、「和痛」と「陣痛促進」のお手伝いを行ってきました。その経験から、鍼灸治療を受けられた方の、お産の状況を予測できることが自身の強みです。

妊婦さんが集まる鍼灸院

Q. なぜお産や妊婦さんに関わる機会が多いのでしょうか？

開業する前に勤めていた鍼灸院の院長先生が、助産師の資格を持っており、後に助産院を開業されました。基本的に妊婦さんのケアはその院長先生自身で行われていたのですが、お産が忙しい時期には、私もケアのお手伝いをしておりました。また、先生の紹介で知り合った助産師の方の院には、お産のお手伝いに行くこともありました。さらに、友人が助産師だった為、友人の患者様も私の鍼灸院にいらして下さいました。このように多方面から妊婦さんが私の鍼灸治療を受けにきてくださるようになり、徐々に妊婦さんに関する治療が得意になりました。

保温が陣痛促進に効果的

Q. 陣痛促進にはどのような治療を行なうのでしょうか？

最も使用するのはお灸で体を温めることです。内くるぶしの上に三陰交というツボがあるのですが、そのツボは陣痛促進に非常に効果的ですね。
また、体に巡っている気の通り道を経絡といいますが、その中での肝経と呼ばれる道に気を入れることも非常に重要です。併せて患者様には、生活習慣や日頃の食生活の指導を行い、自宅施灸などをおすすめして、お産に備えてもらっています。

お腹の悪い血は頭にも影響を及ぼす

Q. 産後ケアはどのような治療をされているのでしょうか？

産後に起こる出血のことを悪露（おろ）と呼ぶのですが、産後1～2週間の間に、悪露出しの治療をおすすめしています。お腹に溜まった悪い血は、脳にも悪さをすると考えているためです。
逆さ顔の法則といって、ちょうど大腸や小腸が脳みそ、臍（へそ）が鼻、みぞおちが口、陰毛を髪の毛に当てはめて考える法則があります。ですので、腹部や子宮に悪い血が溜まると、頭の方にも影響が及びます。マタニティブルーが重くなったり、そのままうつ状態になってしまわないように、産後はしっかりと悪露を排出していきます。

悪露出し(産後出血の排出)は体内リスクを減らす

Q. 産後ケアに関するエピソードをお持ちでしたら教えてください。

産後4日目の方に悪露出しの治療を行なった時のことです。なんと治療後に拳大の血液の固まりが体内から出てきました。もし気づかずに放置しておけば、子宮口がだんだん硬くなり、血塊が体外に排出されずに子宮内に残った可能性が大きいです。そのような状態になりますと、体内に器具を入れて塊を掻き出さなくてはいけなくなるので、非常に感謝されたことがありました。

子宮口が開きやすい体作りを

Q. 鍼灸治療は破水に対しても有効なのでしょうか？

事前の子宮口作りがしっかりしていれば、たとえ破水したとしてもお産に問題はありません。しかし、子宮口がきちんとできていない状況で破水してしまった場合は困難な状況になります。私の治療では、36週目から子宮口を柔らかくする治療を行っていきます。子宮口を柔らかくしておくと、陣痛がきたら、産道が開きやすくなるのです。たとえ陣痛が起こらなくても、陣痛を誘発させると、子宮口は開いてくれますからね。

お産は家族の絆を深める一大事

Q. ずばりお産とはなんでしょうか？

私は赤ちゃんが自分の力試しをする最初の課題であると考えております。ですので、正常分娩が可能な場合、無痛分娩や計画分娩、帝王切開にしてしまうのはあまりにもったいないと思います。親子でお産を乗り越えたときに、本当の絆ができます。また、WHO(世界保健機関)では、出生後数十時間の間に親子で同じ空間にいることで、家族の絆が非常に深まるとしています。さらに、妊娠期間中にご主人がどれだけ奥様に気配りを行ったかによって、その後の夫婦仲が変わってくると言われています。お産はそれほど人生の中で比重が大きく、素晴らしいものなのです。

藤田先生ありがとうございました。

全10回の本企画はお楽しみ頂けましたでしょうか？
10人の先生のお話を通して鍼灸の持つ魅力や新たな一面を感じて頂けましたら、
しんきゅうコンパスのスタッフ一同大変嬉しく思います。